時を超えて親しまれる、豊かな緑を再び。

輪王寺には明治の大火を免れ、力強く大地に根を張る自然が残されてきました。本堂へ登る参道は両側を杉並木が囲い、その荘厳な佇まいは地域の象徴として、時を超え多くの方に親しまれてきました。しかし、ある時、その風景が失われてしまおうかという事態に陥ったのです。
幹線道路の渋滞緩和に向けた北山トンネル計画。トンネルは輪王寺の参道の真下を通ることになり、開削工事での施工のため、参道の杉並木は伐採を余儀なくされました。
これを機に始まったのが、「ふるさとの木による、ふるさとの森づくり」です。杉並木が豊かに生い茂げる参道に、伐採後も、緑を復元する。その思いのもと、輪王寺の森づくりは一歩を踏み出したのです。

森写真1
森写真2
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「自性清浄心」を呼び覚ます、本物の森へ。

私たち人間の心は、本来清らかなものです。これを仏教では「自性清浄心」といいます。心の塵を払い捨てることが仏の教えであり、坐禅であり、本来の自性清浄心である自己につながります。
本物の森は、二酸化炭素を吸収し、酸素を供給してくれます。工場や自動車から排出される空気中の塵や、騒音なども吸収してくれます。清々しい空気を与えてくれます。災害から私たちを守ってくれます。水をきれいにしてくれます。そこには多様な生命が集まり、心を癒してくれます。
より多くの方と携わりながら、一人ひとりが自性清浄心や、自然を愛おしむ本能を呼び覚ましてもらえる。めざしたのは、そのような森づくりでした。

森写真4

多様な樹木による「いのちと心が廻る森」。

「ふるさとの木による、ふるさとの森づくり」。それは、その土地本来の潜在自然植生を利用するものです。2004年には初めてとなる植樹祭を行い、堆肥小屋周りに900本の苗木を植樹。翌年には10,000本、2006年に6,000本、2007年に10,000本、そして2008年に1,500本を植樹。5年にわたる植樹活動で、32,000本にもおよぶ苗木を植えました。植樹祭は回を追うごとに参加者も増え、最後の開催となった2008年には2,000人の方が参加されました。
人工的な森ではなく、ふるさとの木を用いて、本物の森づくりを実践する。それは環境を守り、将来の子ども達のいのちや心を守ることにつながります。
輪王寺がめざす森づくりとは、仏の教えの根本にある縁起の思想をもとにした「いのちと心が廻る森づくり」なのです。

植樹祭1
植樹祭2
植樹祭3